2019年1月1日発行のみやざき中央新聞第2部に「そのまなざしはあなたと私」というタイトルで、金子みすゞ記念館の館長をされている矢崎節夫氏のお話が記載されています。
その中に、金子みすゞの詩「大漁」について紹介してあり、この詩に感銘を受け【「大漁」を読むとこんなことがわかります。この世の中は「海の上と海の下」「光と影」のように、すべて「二つで一つ」なんだと】とおっしゃっています。
また【一人の人が生まれるためには二人いなきゃいけません。そして、生まれた一人はお父さんとお母さんの二人分の尊厳と命の繋がりをもらっています。つまり、「人」という字は二人いてやっと成り立つのです。「二つで一つ」とは「どちらも大切」ということです。「光と影」で一つですから「光のほうが好きで、影は嫌い」と言っても影がなければ光は成り立ちません。だから、すべて「二つで一つ」「どちらも大切」なのです。】この後に「私とあなた」「あなたと私」という視点で人との関係についてお話しされています。
この文章を読みながら、建物の姿(立面)を決める時に、立面図に太陽の陽射しによってできる影を表現していることを思い出しました。建物に影ができる要因は平面プラン、軒の深さ、窓の作り方等によるものですが、特に軒の出を深くすることは、陰影を表現する有効な手段となるだけではなく、四季の変化への対応にも欠かせません。
建物には光が当たるのは当然のことですが、影を表現することで光をも表現していることになるのです。現在、影のない建物が多くなっています。一見「影のない」という表現だけをとらえれば悪いことではなく、どちらかというと良いイメージとしてとらえがちです。ただし建物特に住宅において影のない建物とは、生活者のことを考えての結果ではなく、箱としてのイメージにとらわれている建築家、そして軒を作らないことで工事費用を軽減している施工者の思惑だと思います。