双石山 2022年04月5日 滑落事故死

 双石山の山行をブログに書き始めて400回以上となるが、今回は気が重くどこまで書き続けることができるのかわからないが、記録として書き留めることにする。今日(4月5日)11時00分頃事務所でパソコンに向かっていると携帯の着信音が鳴る。出てみると山友のオッシーで電話をかけている場所は双石山の象の墓場付近らしい。

 電話の内容は3月20日に山小屋で一緒になったSさんのこと、この時点で分かったことは、Sさんが4月4日に双石山に登り夕方になっても帰宅しておらず、双石山に探しに行った弟さんが駐車場でSさんの車を見つけ警察に捜索の要請をして、今日、消防、警察、そして山関係者が山中を探しているらしいとぃぅこと。オッシーは私がSさんの行きそうな所の情報を何か持っていないか確かめたかったので電話してきた。

 Sさんとは今年3月6日に第二展望台で初めてお会いした。私がテーブルベンチで休憩していると1人の女性から声をかけられた「柴さんですよね、ブログを見ています」と「長い文章で読むのが大変でしょう」と返事をすると「いろんな情報があり参考にしています」とのこと「一人で登られることが多いのですか」と聞くと「いつもは弟と一緒に登っていますが今日は一人です」と話された。細身の白髪混じりの感じの良い女性であった。

 2回目にSさんお会いしたのが3月20日でこの日は双石山の山開きの日であり、たくさんの登山者が山小屋周辺でランチをとられていた。そこへ山開きに参加していない山友と一緒に現れて共に囲炉裏の火を囲みランチをいただいた。この日は後藤氏と一緒で二人で作成した小冊子「双石山」を山友達にお披露目することになり、山友達から冊子がぜひ欲しいとのリクエストがあり、再販をすることになった。

 Sさんからも冊子のリクエストがあり、Sさんにお渡しする冊子については、後藤氏の分を私が預かり、後日Sさんにお会いした時にお渡しできるようにとザックのポケットに入れた。Sさんには「週末の日曜日で雨が降っていなければ山小屋にいます」と伝え次回の出会いを楽しみにしていた。

 次の週末3月27日は薄曇り、ただしこの日は前日の五ヶ瀬町でのセミナー開催のため高千穂町宿泊となり双石山に登ることができなかったので、双石山グループラインに「・・・もしどなたかSさんにお会いしたら、柴はお休みですと、伝えていただけますか」に書き込み、山友の桜川さんから「柴さんがお休みと、お伝えすることができました」と夕方ラインに連絡が入っていた。4月3日にはお会いできるのではと楽しみにして登ったが、この日は会うことができずに、次の週末には冊子をお渡しできるのではと思っていた。

 Sさんの行動パターンについては全く知らないが、私のブログを読んでいるのであれば、ブログ内で頻繁に一般登山道以外のルート選択の危険性について書いているので、どこか一般ルート付近で滑落でもしているのではと思いたかった。そうであればこまめの捜索が必要であり、捜索の人員も必要と思いオッシーに今からそちらに行くから、どこで出会うことができるのかと聞くと、Sさんの車が止めてあったルンゼ登山口近くの駐車場に対策本部が作られているからそちらに来て欲しいとのこと、オッシー達も昼にはルンゼ駐車場に下山し午後のスケジュールを見直すことになっているらしい。

 早々に仕事を切り上げ、母親におにぎりを2個準備してもらい、11時05分に事務所を出発、早ければ12時少し過ぎには現場にいけるかもしれない。運転をしながら考えたことが、捜索にあたり何か必要なものはないのかということ、ただし消防、警察と捜索に参加しているのであれば装備的なものは必要は無い、もちろん私自身がそういうものを持っているはずもない。

 運転しながら思いついたものが地図、以前南消防署に何かあった時に役に立てばと双石山の北西斜面の写真と国土地理院の地図を上下に対比し、どこに何があるのかを示したものを作り提出していた。特にヘリコプターで搜索する時に山の写真は有効だと考えた。その地図部分にグリットを入れてナンバーを入れておけば、搜索範囲のチェックがしやすいのではと思いつく。

 帰宅早々に山の準備と、地図に100mグリットを書き込み、縦線に数字、横線にアルファベットを記入する。11時50分に自宅を出発し途中コンビニで地図のコピーを数枚とり、ルンゼ登山口に12時15分に到着する。ルンゼ駐車場は消防車、救急車、警察車両、そして救助に参加している常連さんの車で一杯で止める場所がなく、手前の広い路肩に一台の救消防車両があり、その横に車を止める。

 登山の準備をしてルンゼ登山口の駐車場に行くと、たくさんの人達、消防関係、警察関係、そして山の常連さん達もいる。駐車場のほぼ中央にテーブルが置かれ、その上には数種類の地図が広げられている。その中央に私が南消防署に持っていた地図がラミネート加工されておかれており、その地図上にマジックで、すでに捜索隊が歩いたルートなのか青く線が引かれている。このような場合を想定し作った地図だが、実際に使われている状況を見ると複雑な想いになる。

 丁度、昼の時間と言うこともあり、ほとんどの捜索隊が山を下りているが、Sさんの弟さんと一緒に山に登っている警察の機動隊は第二展望台から山頂方面を捜索しているらしい。初めてお会いした時にいつもは弟と一緒に登っているとおっしゃっていたので、Sさんの行動パターンは弟さんが一番わかっている。弟さんにはできたら対策本部に待機して参加している各捜索隊にその情報を伝えていただければと思うが、なんとしても姉を探したいという弟さんの気持ちは理解できる。

 午後からの捜索のために、とりあえずランチをいただくことになり、急遽にぎってもらったおにぎりを2個、そしてコンビニで買ったカツサンドを一つ食べる。

 午後からの捜索にあたりどの場所を捜索するのかということになり、私は冊子「双石山」で紹介した天狗岩の東側にある「天狗の隠れ家」そしてそこから大岩に直接登る谷筋の急登、そしてまだ確認していないという双石山で滑落事故の多い大岩から第二展望台までの尾根コースの東側谷筋を捜索したいと責任者に告げ、レスキュー隊員と一緒に行動することになる。

 他はルンゼ遭難碑から行者コースを辿り、今年2月に滑落事故のあった場所の下と、その上を捜索することになる。この場所の上は岩登りのクライマーしか登れない場所で、そこをSさんが登ったとは考えられない。ただし、山小屋北側テラスから枝尾根伝いに途中まで下りることはできるが、行者コースまで下りるには途中でロープが必要になり一般の登山者にはとても対応できる場所ではない。または尾根筋登山道のどこかで足を踏み外しこの辺りに滑落した可能性も否定できない。ただしこの選択は結果正しかった。

 結局、私が案内する天狗の隠れ家から第二展望台までのチーム、N氏とS氏の現役クライマーが案内する山小屋直下の岩場チーム、そしてその岩場の下を捜索するオッシー が案内するチームに分かれて13時15分に捜索を再開する。

 「私に連絡をくれたオッシー の後日談だか、5日の朝7時40分に警察犬がルンゼ登山口から山中に入り、遭難碑を少し進んだ所まで進み、その後引き返したという話を聞く。私は遭難碑手前で北壁方面に進み、象の墓場から王家の谷、尾根筋登山道、山小屋というルートを辿り事故に遭ったのではと思ったが、遭難碑までSさんを確認できたのであればそのまま行者コースを辿られた可能性もある。(4月7日記)」

 私の班にはレスキュー4名、警察4名の計9名、ルンゼ登山口より上り岩壁の手前を北壁方面にトラバースしながら気になる場所をチェツク、上空には捜索のために防災ヘリコプターが飛んでおり低空飛行のためうるさい、ヘリコプターが離れた時にホイッスルを吹き反応を確かめる。すでにこの場所は午前中に山友が探している場所だが、どこか岩と岩の間に落ちているのではと探しながら進む。

 静観の間を過ぎ、象の墓場手前まで来た時に、レスキュー隊員に無線が入り「要救助者確認」と報告がある。場所は別のチームが向かった山小屋直下の岩場の途中、クライマーのS氏とN氏が確認したらしい。この時点で連絡が入った内容は崖途中の木に引っかかっているということ、2人のクライマーにも2人のレスキュー隊員が同行しているが2人での救助は難しいということで、私と一緒にいた4人のレスキュー隊員も滑落現場へ向かうことになる。

 場所はオッシーからの連絡で、以前地質学者の赤崎氏と一緒に行った岩の近くで、そこまでの道案内のため一度ルンゼ遭難碑まで戻り、そのまま真直ぐに行者コースを辿ることになる。象の墓場入り口からほぼ40分ほどの行程となる。普段私はほとんど行かない行者コース、ただ目的地までのルートはしっかりと記憶にある。

 県道側は急峻な斜面となっており慎重に山をトラバース気味に進んでいくとオッシー の姿があり合流する。現場はそこから岩崖をめざして上り、突き当たった岩壁のわずかな棚部を東側(ルンゼ側)にトラパース気味に登っていくと行き止まりとなっている。ただしそこにはアブミ状に足掛かりの輪っかを付けた白いロープが下がっている。垂直の壁は確認できるだけで4〜5mほどありそうだが、上は草付きのためロープの上は確認できない。現場はこのロープを上がったところからさらに50mほどルンゼ側にトラパースした所らしい。

 ここでレスキュー隊員が現場に声をかけるが返事がない、まだ現場までは距離があるためか、しばらくすると白いロープが少し動く、上に誰がいる気配があり、しばらくすると行き止まり先の岩壁にクライマーの姿が見える。レスキュー隊員1名がこの頼りないロープを登り、上から手持ちのザイルを下ろし他の3人はそのザイルを使い登っていく。ここまできたのはオッシーと金丸氏、蛭川さん、大住さん、そして私だが、ここは狭い場所で足場も悪く、下の広い場所に移動し上の岩場での救助の状況をしばらく確認する。

 Sさんを見つけたクライマー二人が下りてくる。救助はレスキュー隊の役割、クライマーの方に話を聞くと上から落ちて木にかかった状態で、すでに息絶えているとのこと、現場状況確認のために撮られたという写真を見せていただいたが、岩壁から張り出した樹木に何かが絡み付いているようしか見えなかった。

 要救助者発見ということで、ここまで同行してきた他の消防隊員は、金丸氏、川越氏と一緒に対策本部のある場所まで下りることになり、警察関係者達は検証のため山小屋まで登ることになり蛭川さん、山本さん、大住さんが案内する。私とオッシー は救助活動をしているレスキュー隊員が下りてくるまでこの場所で待機し、レスキュー隊員と一緒に下山することにする。

 防災へリーが近づき周辺の木々が大きく揺れる、樹々の間から時折ヘリコプターの一部が見えるだけ、すぐ近くでホバリングしていることはその音と激しく揺れる樹々でわかる、ヘリコプーターに乗ったレスキュー隊員を下ろしているのか一向に現場を離れようとしない。しばらくすると一旦山から離れ、上空へと高度を上げ姿が見えなくなった。

 下に見える行者コースに12名の同じリックを背負った制服姿の人達が見える。どうやら警察の機動隊の人達、先頭を歩いているのはSさんの弟さんのようだ。行者コースまで下り後方を歩いていた機動隊員に話を聞くと弟さんを含めルンゼ駐車場まで下りるとのこと。

 しばらくすると吊り上げの準備ができたのか再度ヘリコプターが近づき、オッシーとの会話が出来ないくらいうるさい。ようやく現場からヘリコプターが離れていく。ヘリコプターの行き先は怪我人の場合は宮崎大学医学部病院の屋上ヘリポート、それ以外の場合は椿山公園の駐車場となるらしい。

 しばらくするとレスキュー隊員6名が下りてくる。時計を見ると16時25分、白いロープが下がっている場所に到着したのが14時55分なので、1時間半ほどで木に下がった要救助者をヘリコプターに吊り上げたことになる。レスキュー隊員は日々訓練しているとはいえ、単なる建物などの垂直の壁ではなく複雑な地形と様々な樹木が絡み合う厳しい現場での作業であり頭が下がる。

 隊員に現地を確認すると、やはり山小屋北側テラスから伸びる枝尾根を下った場所で尾根筋の東面、丁度ルンゼの岩場が望めそうな場所、ここでの事故は私が知っているだけでも3回ある。最初は2020年10月25日のF氏の滑落死亡事故でこの時はベタランのF氏が持参のロープを持っており、そのロープが首に絡まったと聞いている。次は今年2月20日の女性の滑落事故でこの時は骨折で済んだらしいが当日に引き上げることができずに滑落した場所から10mほど上でレスキュー隊員と一晩過ごしたと聞いている。そして今回の滑落死亡事故となる。

 双石山の尾根筋登山道の北西側は切り立った崖となっており、Sさんがどの場所で足を滑らして落ちたのかはわからないが、ほぼ同じ場所で発見できたのは偶然のことなのだろうか。なによりもクライマーのN氏とS氏がこの場所を捜索したいと提案しなければ、Sさんは発見できなかったかもしれない。事故は残念なことだが、滑落の翌日に発見できたことは本当に良かった。

 下りてきたレスキュー隊員にオッシーからチョコレートの差入れがあるが、水分補給もなくそのまま一緒に下山する。17時00分頃にルンゼ登山口にオッシーを先頭にレスキュー隊員6名と一緒に下山する。駐車場の手前で弟さんの出迎えを受けることになるが、Sさんから弟さんのことは聞いていたので、こんな形でお会いすることになりとても残念、私がリックに入れていたSさんから頼まれていた小冊子「双石山」をお渡しする。

 関係者の半分ほどの車両はいなくなり、駐車場にはSさんの車が残されており、警察の方が乗って行かれる。同行したレスキュー隊員の無線に海難事故の緊急連絡が入りレスキュー隊員はサイレンを鳴らし現場へと向かっていた。

 本当に残念な結果となったが見つけることができて本当に良かった。発見現場のことを考えると見つけられたことは奇跡に近い、そしてその場所を搜索したいと言われたN氏とS氏にその理由を聞いて見たい。

 一般登山道を前提に山での1日を楽しんではいるが、一般登山道でも事故は起き、いつ我が身となるかこればかりはわからない。

 最後に、山での出会いを楽しみに毎回登っているが、このようなことはとても残念、Sさんのご冥福を祈ります。



ルンゼ登山口の駐車場
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対策本部のテーブルを囲んで午後の捜索ヶ所の打合せ
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テーフルの上に私が作った地図が置かれ、
搜索の済んだルートがマジックで青い線で引かれている。
南消防に提出した地図には一般ルートだけではなく、
行者コース、そして行者コースから尾根筋に直登するコース
(山小屋直登・山頂直登)
奥の院コース、巨石群コースなども表示している。
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要救助者発見を連絡を受けて現場近くに移動する
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岩壁の棚部を登り、行止まりのロープで登り、
さらに50mほど進んだ所が発見場所
クライマーでなければとても見つけることはできない
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棚部の行止まり
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設置してあったアブミ加工したロープを使い隊員が登る
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救助中 待機する山友、そして消防隊員と警察関係者
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ヘリコプターへの吊り上げが終わりレスキュー隊員が下りてくる
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今回の発見現場はルンゼ登山口駐車場前の県道から、
道なりに山を眺めた時に見える枝尾根の東側



朝日新聞 2022年4月7日
双石山 2022年04月5日 滑落事故死_c0153595_09204427.jpg


宮崎日日新聞 2022年4月7日
双石山 2022年04月5日 滑落事故死_c0153595_09221786.jpg

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by mutumi48 | 2022-04-06 18:12 | 双石山へ | Trackback | Comments(0)

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