高鍋町 なぎのき(小規模多機能型居宅介護事業所)
2023年 01月 07日
お年寄りを対象とした施設では、管理する側の見守りのためか、閉じられた空間を日常生活の場所とし、また体の衰え等により、床の段差をなくすことで安全性を確保するケースが多いように思います。
今回、管理者・スタッフとの打合で「この建物は利用者が自宅との併用で過ごす場所となるので、完全なバリアフリーでなくてもよい、空間として自宅とのギャップが少ない方が利用者の日常生活を考えると望ましい」との意見がありました。
高齢者を対象とした施設ということで、バリアフリーをイメージしていた私にはまさに「目から鱗」、確かに利用者はこの建物でずっと暮らすわけではなく、長年住み慣れた自宅に多少不自由を感じながらも、家族の手助けや訪問サービスを受けながら自宅をベースに、この建物との併用で過ごし、また加齢の変化に応じてその後の生活環境を変えていくことになります。
この建物の収容人員は、最大37名、内訳は利用者が登録定員25名、介護スタッフが管理者(ケアマネ)1名,看護職員1名、介護職員8名、訪問サービス職員1名、賄い職員1名の計37名となりますが、全員が常に建物内にいるわけではありません。通いサービス利用者の定員は最大15人となるため、スタッフも7人となり多い時で日中22人程度がこの建物で生活することになります。
通い利用者には、日中ゆったりとした時間を過ごせる場所が、事情により宿泊が必要な人には短期間利用できる部屋が準備されます。利用者の日常はそれぞれであり、介護する側で生活プログラムも準備されることになりますが、それ以外に利用者・介護スタッフが一緒に過ごす時間もあれば、少人数で過ごす時間、お気に入りの友人と過ごす時間、そして一人で過ごしたい時もでてくるかもしれません、それぞれの時間を快適に過ごせるようにソフトの充実を図りながら運営されていくことになります。
■2 配置計画
敷地は、県道沿いの三角形の土地、北側に幅員4mの町道、西側に幅員6mの進入路、東側に2車線の県道が接しています。開発行為による造成の関係で敷地へのアプローチは北側又は西側からとなります。
三角形の敷地は一般的には建物計画には不向きな場合が多いですが、今回建物内容から、この敷地形状であればこそのプランを考えてみました。
アプローチとメインの駐車場を北側町道沿いとし、建物をL型平面とすることで、パブリックとプライベートの二つにゾーニングすることが可能となりました。
そしてL型で囲まれる県道に面した庭に対して、利用者の生活がにじみ出てくるように、内部と外部とをつなぐ開放的なベランダを設けることで,県道側に視覚的に開かれた建物としました。県道を行き来する車の中から、庭、ベランダ、建物内部、それぞれの生活が垣間見え、また施設利用者からは庭の木立を通して、車の行き来を目にすることになります。
■3 平面計画
利用者は広めの屋根付きポーチから玄関に入ります。玄関ホール上がり框には15cmの段差、壁際には手摺はありますが、ここで利用者は自宅同様一段上がることになります。玄関の上がり框で靴を脱いだり履いたりすることで建物内・外での生活に区切りをつけることになります。
利用者の方は玄関ホール正面に進み一端「居間1」の部屋に入ります。入ると視覚的には40畳の広い居間が目に入り、手前は「居間1」その奥は「居間2」となります。
玄関ホールを左側に進むと、来客及びスタッフ用便所があり、反対側には事務室があります。事務室は最小限の広さとなっており、守秘義務を必要とする面談、利用者の個人データー等の管理を行う場所となり、一般的な事務作業,定期的に行われる監査等は時間を配慮し隣接する「居間1」の大きなテーブルで行います。
玄関ホール右側建具を開けると、台所につながる収納スペースとなり、買い置き食料品及び冷蔵庫,電子レンジ等の電化製品置場を兼ねます。その奥が台所となり「居間2」に面した対面式キッチン、壁側にはカウンター収納及び吊戸収納となっており、長いカウンターは配膳スペースとなります。そのまま進むと食堂テーブル横を通り「居間2」へとつながります。動線計画上いつも考慮しているパブリックゾーン内での回遊性・二方向アプローチを基本としています。
「居間2」の南西角の出入口を通るとプライベートゾーンへの廊下となり、まず右側に洗面脱衣室の出入口、廊下をそのまま進むと5つの個室につながります。廊下の両端には洗面スペース、中央寄りに便所があります。
■4 利用者の生活の場
この建物には、利用者の方が日常的に利用できる6つの場所が準備してあります。一つ目は県道側に開放的なコーナー窓を持つ「居間1」で、住宅での応接室にあたります。
2つめ目は広い「居間2」この部屋は住宅での居間になり、この部屋に面して動線的にも、視覚的にもつながっているのが「和室」「食堂」「台所」そして「ベランダ」となっています。日中ほとんどの時間はこの「居間2」で過ごすことになります。
3つ目が「和室」居間2に開放的に接し、畳床が30cm高くなっています。6畳和室が2部屋,中央のフスマをはずせば、12畳の和室となります。座卓利用、お昼寝、冬場のこたつ利用、また夜間の利用者宿泊の部屋としても利用することになります。
4つ目が「個室」であり、宿泊を前提に9部屋準備されています。個室は見守りの程度により使い分けされることになり、頻繁に見守りが必要な利用者は、食堂テーブル横の部屋となります。通常の利用者は南北に伸びる廊下に面した5つの部屋となります。
5つ目は「ベランダ」で、パブリック及びプライベートそれぞれのゾーンに芝生の庭に面しています。天気の良い日、軒下でゆったりとした時間を過ごすことができます。
6つ目は庭です。県道と建物との間にあります。広い芝生と、落葉樹、常緑樹による木立が作る空間はそれぞれの季節で楽しみを与えてくれることでしょう。また元気な利用者には菜園づくりのお手伝いをお願いすることになるでしょう。
■5 さいごに
お年寄りのための建物として、長年住み慣れた我が家から手取り足取り介護される施設までたくさんの種類があります。
今回、取組んだ「なぎのき」は利用者の自宅との併用が前提となる建物です。管理者・スタッフとの打合せを重ねる中で、この建物は人生の後半をむかえるための「最初の一歩」という位置づけで計画しました。▪️ 居 間 1
この建物には居間が2カ所あります、1カ所は玄関ホール の引き戸を開けると正面に作り付けテーブルのある場所 でこのテーブルは10人ほどで囲える大きさがあり、流しが 設置してあります。この場所が多様な使われ方ができるよ うにとの配慮です。
日中・夜間とこの場所が日常的に使わ れていれば、敷地東側県道を行き来する人達が自然と目にすることになります。建物内での人々の動きを外部から見 られることは、その建物自体を生き生きとさせ、建物(施設自体)の魅力のひとつにもなります。
この建物を利用される方が初めて訪れたとき、ここでス タッフの方と顔を合わせる事になります。もちろん利用者 家族の方や、様々な事情で訪れる方達の接客の場所にもな ります。ただし他の人に聞かれてはいけない話の時は、隣 の事務室が使われます。他日常的に、利用者の方達の学び の場所として使われ、時には食事の場にもなることもある でしょう。 利用者の大半が帰宅された後の時間に、スタ ッフ同士のミーティング、そして事務処理の場所としても 利用されることもあるでしょう。
これからますます増えていくお年寄り、そしてその家族 への様々な情報提供、相談事の場所として高鍋町内の人た ちに利用される場所でありたいという想いから「認知症カ フェ」として使われる事もあるでしょう。
夕暮れからの時間、県道を通る人達の中には、この部屋 の白熱色の灯りを見て帰宅への想いを強くする人もいる でしょう。


▪️ 居 間 2
玄関ホールから居間1を横目に進むと、そこは居間2とな り、この建物を利用されるみなさんの日中の主な生活空間 となります。
また正面左(南側)にはこの建物の特徴となっている広 い濡縁(ベランタ)に出入できる掃き出し窓があり、南西 角には夜間利用者のための個室へつながる廊下の出入口 があります。
隣接する台所は、厨房という機能性重視な部屋ではなく、 一般住宅で最近多く採用している家族同士、ここでは利用 者とスタッフが向き合える作り方としています。
部屋中央ベランダ寄りに大きな柱があり、その柱を境に ベランダ側天井はフラット、そして反対側は高窓があり台 所側への下がり勾配天井となっています。高窓は南に面し ており、居間北側にある台所・テーブルスペースへの明り取りとなっています。
正面左奥(南西角)の引き戸を開けると、利用者の個室 へつながる廊下になります。廊下に入り最初の部屋は浴室 のための脱衣室となります。
夜間の個室利用者は、二つの選択があります。見守り頻 度の高い利用者は居間2に直接面した部屋が4つ準備して あり、他の利用者のためには、この出入口奥に5つの部屋 があります。



▪️ 和 室
▪️ 台 所
この建物を特徴づけている場所として台所があります。 食事を作る場所としてだけではなく、利用者と賄いスタッ フとの距離を考慮し、対面式のオープンキッチンとしまし た。建物内での利用者の楽しみはそれぞれだと思います。 その中で食事の時間を楽しみにする方は多いでしょう。
また利用者は、長い期間自宅の台所で過ごした経験があ ります。この建物利用期間中にも、自宅での生活において 長い時間台所で過ごされる方もいらっしゃることでしょ う。現在女性も男性も台所は日常生活の大切な場所となっ ています。
この建物では「厨房」と呼ばれる部屋とせず、住宅の台 所のイメージを大切にしました。利用者の中には、台所で スタッフが準備されている最中にカウンター越しに話し かけられる方もいらっしゃるでしょう。時には利用者も参 加し、食材を確認し、味見をされる方も、そうでない方も 調理の音、香り、等を楽しみ、その中で季節感、生活感等 感じられればと思います。いろんな場所で利用者とスタッ フが一緒に過ごす事ができればと思います。
台所横には収納スペースがあり、台所と直線でつながり、 反対側は玄関ホールにつながっており、二方向からのアプ ローチができます。


▪️ 食堂テーブル
台所の横には、6人ほどで囲える作り付けのテーブルが あります。利用者が少ないときはここで食事をしていただ くことになります。また配膳の時や、賄いスタッフの事務 処理の場所として使う事もあるでしょう。
テーブルの奥には洗面スペースそして便所があります。
テーブル北側には利用者のための個室が二カ所あり、こ こは特に見守りが必要な方が利用される部屋となります。

▪️ 洗 面
洗面には学校等で使われる実験用流しを提案しました。 大きさは長さが76cm、奥行きは47cm、深さが15cmあります。 このタイプは底がほぼ平となっており、その広さと合わせ て様々な使い分けができるのではと考えています。またカ ウンター手前には手摺を設置しています。

▪️ 脱衣室・浴 室
脱衣室・浴室は建物の中央、居間等のパブリックゾーン と、個室が並ぶプライベートゾーンの中間にあります。 脱衣室には西側の洗濯専用ベランダへ直接出入りができ ます。
脱衣室にはエアコンが設置されますが、夏場の暑い日、 湯上がりに廊下を介して直接出られるベランダは涼むの に気持ちのよい場所となります。

▪️ 便 所
建物内には3カ所の便所が あります。一つ目は玄関ホー ル横の来客及び介護スタッ フ用便所です。2つ目は食堂 テーブル奥の洗面スペース 横の利用者用便所、3つ目は 個室が並ぶ片廊下に面した利用者用便所です。
利用者はいずれの便所を利用しても良いのですが、排便 時、またその前後に介護が必要な方は奥の2カ所を使うこ とになります。広さは畳2枚弱であり、単独での利用と、 介護者との利用の二通りを前提としています。そのため便 器を室中央に設置し、トイレットペーパーは2カ所、一カ 所目は単独利用の場合の位置、二カ所目は介護者が使う場 合の位置としています。

▪️ ベランダ
▪️ 採光と通風
それぞれの部屋に十分な採光を確保できればと考えま す。今回居間2は、台所、食堂テーブルにも採光が確保で きるように天井を南側へ上る勾配天井とし、高窓を設置し 採光と合わせて、夏場の熱気を排気できる仕様としました。
敷地は海岸から3kmほどの位置にあり海風陸風の影響を 受けます。昼間は海からの東風、夜間は西風が吹きます。 東西方向の通風確保のため、窓の位置及び風の通りを配慮 した計画としました。
ただし、ここ近年の猛暑日はエアコン頼りとなりますが、 それ以外は自然の風が建物内を通り抜けます。特に頻繁に 使用される和室は、西側窓に一工夫しております。
夏場の西日はたいへんきついものですが、かといって閉 じてしまうと東西方向の風が抜けません。対応として、こ こには雨戸を設置、その雨戸は通風ガラリ仕様とし、昼間 の西日を防ぎながら風を通すことができます。また夜間は 施錠付きとなっているため、ガラリ雨戸+アミ戸の組合せ により夜間開放も防犯上問題なくおこなえます。
竣工後写真(2016年10月28日)













































