HM ヘリテージマネージャーへ
2023年 03月 20日
今日の地元新聞(宮崎日日新聞)に「眠る歴史的建物再生」というタイトルで、各地で活躍するヘリテージマネージャー(HM)の紹介記事が掲載されている。まだまだ知名度の低いHMだが、各地で徐々にその活動が実を結びつつある。
先月、私が卒業した大学の同窓会誌への掲載依頼があり、そのテーマが卒業生のHMとしての活動報告となっており、今月はじめに私の原稿を送ったのでここにも掲載し紹介する。
ヘリテージマネージャー(HM)へ
HMとの出会い
2013年(58才)に日本建築士会連合会で進められているヘリテージマネージャー(HM)という存在を知り興味を持った。阪神淡路大震災が要因でHMの必要性を認識した文化庁も支援しており、HMの育成が全国に広がり、宮崎県内でも100名のHMを目標に育成をスタートすることになった。私自身、建築士会活動は青年部(〜40才)の時は熱心に取組み、結果、自身のスキルアップになったが青年部終了後は会費納入だけの会員となった。HM養成の話を聞いた時に、私のその後の社会貢献の一つに成ると思い三年間限定でこのHM養成講座実施委員会の委員長を自ら引き受けた。
当面HMの取組は業務としての可能性は低く、建築に携わる者の自己満足にしか過ぎないが、大学時代に山崎研、伊藤研と歴史に関わる研究室での経験、南郷村の百済の里づくりへの参加などで、民家や歴史的な建造物に関わり、その時々の専門家との繋がりもあり、そして全国のHMのとりまとめが本学の後藤治氏だということを考えると与えられた使命ではないかと思えた。
HM養成講習会
2013年に委員会を発足し1年間の準備を経て2014年5月に第1期HM養成講座がスタートする。講座内容は将来のHMの資格認定に配慮したカリキュラムが日本建築士会連合会で決められている。講座は二つに分かれており「講義」と「演習」で、オリエンテーションからはじまり、HMの基礎知識、技術編(建築修復の技法・工法)、まちづくり編、登録文化財と指定文化財の調査と報告書作成、最後に受講生による「私が見つけた歴史的建造物」の報告となっている。
多くの県での講習会は地元大学との連携で進められているが、宮崎県には建築学科のある大学がないので、全国に講師を求める事ができた。それぞれの分野で最も知識と経験が豊富な方を選び直接連絡を取り講師をお願いした。
講師選定は講習会の魅力付けにもなり講座内容によっては受講生以外の参加者も募ることにした。特に近現代建築として日南市文化センター(丹下健三)を取り上げた時には、丁度、新建築社から「丹下健三」が出版され、その著者である藤森照信氏に講師をお願いした。そのことを建築士会九州ブロックに告知しすると九州全県から200名以上の参加希望者となった。
通常、建築士会委員会の構成メンバーは各支部からの推薦だが、より充実した講習会にしたく熱心な9名にお願いしスタートする。講座内容に興味を持つ修了生が「ぜひ委員となり講座を企画したい」と3期目には17名になった。
「ひむかヘリテージ機構」の設立
2017年2月に3期目が終了し計108名が受講し全講座(60時間)修了した83名のHMが誕生した。養成講座終了後に修了生の中から希望者を募り、1年をかけてHMの活動をどのように進めていくのか検討し、2018年6月に新たな代表による新組織「ひむかヘリテージ機構」がスタートする。
前年に国登録有形文化財指定(2017年5月)を受けた宮崎県庁本館講堂で設立総会を行い、機構立ち上げまでの経緯について説明し私のまとめ役としての役割を終えた。その後は世話人会の一人として若い代表をサポートしている。
HMとしての活動
3年間(計180時間)の講義・演習を受講、そして業務で取組んでいた「諸塚村産直住宅」により、伝統的な木造建築に詳しいという評価を得て、戦後間もなく建てられた築64年のS邸のリノベーションの機会をいただく。70坪以上の平家で先代が建てた建物を高齢の息子と孫がこれからも大切にしたいという意向を受け取組むことになった。将来の国登録有形文化財指定の可能性を考慮し外観保持を前提に、これからの快適な生活を考慮したリノベーションとなった。
他にHMとして高鍋町内の旧武家屋敷を国登録有形文化財にしたいとの所有者(フランス在住の日本人)Tさんの想いを受けて所見作成と写真撮影を行い2018年5月に県内92番目の国登録有形文化財となった。本来業務をボランティアとして行うことはないが、初めての所見作成ということもありあえてその費用の請求はしなかった。
フランスへの誘い
ただし、この取組みには後日素晴らしい出来事が待っていた。フランス在住のTさんには同居しているジュネーブに勤める息子D氏がおり、彼とは数回高鍋町で会い周辺の私が設計した住宅を案内し、またS邸のリノベーションにも大変興味を持っていた。所見作成が終わった頃、二人からフランスの自宅に来て欲しいと誘いを受けた。その住宅は18世紀に建てられ、農家時代の雇用人達が使っていた三層のスペースをリノベーションするために、その基本計画を私にして欲しいということで、期間は2週間、基本計画の費用、飛行機のチケットと宿泊は準備する、そして週末には私の希望する所に案内するというものであった。
ル・コルビジェ
2017年(63才)の誕生日翌日から2週間フランスに行くことになった。場所はジュネーブ近くのChevryという町で、ジュネーブ国際空港から車で30分ほどの所、近くの丘に登るとスイスアルプスが一望できる。石造りの伝統的な建物の中で寝泊りしながら平日はブランを練り、週末には近郊のル・コルビジェの建物を見学するというまさに人生最高のバカンスを味合うことになった。
最初の週末はレマン湖の湖畔に立つル・コルビジェの「母の家」、翌日はル・コルビジェが生まれたLa Chauk-de-Fondsを訪ね10代後半で設計した、ファレ邸・シュトッツァー邸・ジャクメ邸・ジャンヌレ邸を見学する。
2度目の週末は南仏の1泊2日の旅、初日はラ・トゥーレット修道院を設計する時に参考にしたと言われている「ル・トロネ修道院」、私の本棚に「粗い石」があり、仕事で疲れた時に少しずつ読み進めていた。まさかその舞台となっているル・トロネ修道院にいくことができるなんて想像だにしていなかった。次の日にはラ・トゥーレット修道院を見に行く。この時のことは私のブログ「柴睦巳・備忘録」のカテゴリー「モンブランの見える村から」で紹介している。
宮崎県の文化財建造物へ
現在HMとして年に4、5回実施しているスキルアップ講座の準備、2018年から都城市文化財保護審議会委員、2022年6月からは宮崎県文化財保護審議会委員も兼任している。その間、2020年に解体撤去された旧都城市民会館(菊竹清則設計)について、本来は審議の対象とはならないが審議の必要性を提案、また都城市内の大正時代に建てられた住宅を国登録有形文化財に指定するため所見を作成し昨年秋に国の審議会から答申が出され今春には正式に決まる。
また県内にある国指定や市町村指定の文化財建造物の保存修理及び活用、そして国登録有形文化財申請にHMが業務として関わることができるように役所の文化財担当者をまじえて検討をしている。
柴睦巳(1981年修士課程修了)


